アナログ機材








0と1の数字の世界だけで出来上がった電子機械を、財前はじっと睨みつけるように見ていた。
白く光る画面に顔が反射されて、顔がピカピカ光っているのがわかる。
そしてリズムに乗るように小刻みに震えながら、明らかにデジタルだとわかる音が出ている。
しかしその音は不安定に途切れては消えていた。
財前はその音を何度も聴きながら、また睨みつけるように睨めっこしている。


「なあ」


それ故に、今の財前にはそのデジタルな電子音以外の音が雑音にしか聞こえていない。
自分と同じ空間に居るはずの、しかも恋人の声など、全くお構いなしだった。


「ひ、かるッ!」

「ちょっ……何、あー……!」


背後から自分とほぼ同じくらいの重さの人間が圧し掛かり
何の受け身も取っていなかった財前は、そのまま目の前にあるパソコンのキーボードへ突っ伏すような状態になった。
同時にキーボードが乱雑に音を立て、反応して先程の電子音がめちゃくちゃに響き渡った。
圧し掛かってきた人物が重かった事とか、顔をキーボードにぶつけた事の痛みなどよりも
今のめちゃくちゃな電子音が鳴り響いた事のほうが財前にとっては一大事で
後ろの相手に文句を言う余裕すらなく、慌てて起き上がってパソコンの画面を確認する。
案の定、先程まで必死にパソコンを睨みつけながら組み立てていたメロディーラインの音程は
今の衝撃で余計な音がどんどん組み込まれて完全に壊れてしまっていた。

それを把握した財前は、一気に蒼白な表情になっている。
途中保存すらしておかなかったため、この今入った音を全て消すのは相当な手間がかかるのだ。
偶像になったかのようにピクリとも動けずにいる財前の後ろで、今の事故をしかけた張本人が遠慮気味に財前の肩を叩いた。


「……な、なあ……今、もしかしてやばいことした?」

「……―――ユウジ先輩」


自分のほうを振り向かずに名前を呼ばれ、もうこれは完全に怒っているんだと確信した犯人、一氏は
とりあえず謝るしか方法がないと思い、緊張で潰れそうな喉を開いてなんとか謝ってみた。


「……ひ、光……ごめ……ごめん……な」


財前が肩で息をしていることを、自分の手のひらを通じて感じた一氏もまた蒼白な表情になる。
そしてゆっくりと財前が動き出して、ロボットのようにギクシャクした動きで一氏を見る。
顔は真っ青になっているが、相変わらずのポーカーフェイスで無表情だった。
怒っているのかそうでないのかよくわからない。
一氏は油断もできず、ただじっと財前が何かを発してくるのを待った。


「……先輩……俺が、パソコンに夢中で、先輩に構わなかったから悪いんすね」

「へ?」

「せやから、罰が当たったんやとでも解釈しておきますわ」

「や、あの……」

「お詫びとしていっぱい触らせて下さい」

「ちょ、待てって!俺の話聞いとるん!?」


一氏の慌て様に全く動じず、財前は肩をがっちりと掴むとそのまま床へと押し倒した。
ほぼ変わらない二人の身長体重ではどっちが上だとか下だとか関係なくて
運やタイミングでいくらでも力の差など変わってしまう。
カーペットの上だった為強い衝撃はある程度避けられたものの、
それでも背中と肩甲骨を思い切り打ちつけた一氏は、痛そうに顔を顰めた。
バンダナで綺麗にまとまっていた深緑の髪の毛も、バサバサと乱れる。
それでも財前はお構いなしと言うように、目の前にある白い首筋を何度も吸った。


「んッ、ああ……ちょっと、待……」

「どうせ構ってほしかったんでしょ?好都合やないですか」

「アホッ!別にこういう意味やなかった……のに」


顔を真っ赤にしながらも満更でもなさそうな一氏を見て、財前は小さく笑った。
シャツを捲りあげて胸の突起へ小さく口づけると、一氏はピクンと跳ねて小さく声を上げる。
反応が可愛くて、何度も同じ行為を繰り返していた。


「あ、あっ……ひ、かる、おい、光っ」

「何」

「……長いわ」


そう言って不満そうな顔をする一氏を見て、財前はまた笑った。


「だって先輩の反応、面白くて」

「ふざけんな!」

「何すか、早く入れてほしいんすか」

「ち、違ッ…!」

「はいはい」


組み敷かれてる状態で暴れるのは体力消耗するだけだから、やめてほしいなあ、とか。
そんなことを頭の隅で思いながら、財前は一氏の上半身を弄るように舐めた。
そのたびにぴくん、ぴくん、と一氏の身体は跳ねる。
別に初めてでもないのに、くすぐったがり屋という訳でもないのに、一氏は小刻みに震えた。
財前は指で臍の下をなぞり、下半身の中心へと手を移動させる。


「うっ、あ……んあ、あッ……!」

「変な顔」

「……ッ、いちいちうるさい!」

「なら先輩の声で黙らせてみたらどうっすか」

「何言って……あっ……あ、ッ……ああッ」

「あ、良いこと思いついた」


そう言って、財前は完全に勃ち上がった一氏のモノをいきなり放した。
身体から離れ、先程まで夢中になっていたパソコンへ再び近づくと
その周辺機器として置いてあったマイクをガタガタと弄りだした。
このマイクは財前が作曲したりする時に使用している物だ。稀に自分の声を合せることがあった時に使う。
でも最近はずいぶんと御無沙汰で、必要ないかと思って接続を外していた。


「はい先輩、これ」

「……ッ、何……」


興奮した状態で余裕のない一氏に対し、財前は押しつけるようにマイクを渡す。
通常のマイクより小さめで指で持てるサイズのものだった。
首を振って受け取ろうとしない一氏に対し、財前は無理矢理手首をつかんで指に絡めた。


「何、ッ…や、あ、ああ!」


空いてるもう片方の手で、放置されたままの一氏のモノを強く扱き始める。
突然の刺激に戸惑いながらも快感に勝てず、声を漏らしてしまう。

マイクのコードはパソコンのほうまで繋がっており、電源が入っている状態になっている。
マイクは一氏の声を拾い、パソコンを通して流れていく。


「やッ、だ……何、して……」

「先輩の声録音してみました」

「やめ、……ッあ、んぅ、ああっあ…ッ!」

「先輩の声ちゃんと俺のパソコンの中に残ってますよ」

「あっ、ああっ…や、あ…あッ……んあ……!」


羞恥で顔を真っ赤にしながら、財前の持つマイクから逃れようとしていた。
しかし財前は一氏の顔を強くつかんで離さない。


「嫌、いや、だ…ッ、光……!」

「やめないっすよ。俺が頑張って作曲してたデータ飛ばしたのは先輩でしょうが」

「うっあ、あっ…んッ、あ…ッ」

「代償として先輩に頑張ってもらいます」

「い、や………だっ……ああっ、あ…ッ、んあっ……や……!」


良い声で鳴いてくれる嬉しさとは裏腹に、
まるで死刑執行の日取りが決まった死刑囚のように愕然とする一氏を見て
さすがにやりすぎたと思ったらしい財前は、ため息をつきながらマイクを離した。
結局最後まで扱いて一氏をイかせると、手に持っていたマイクを手放した。


「ッ……、あ……」

「すいません、やりすぎました」

「……え」

「録音消してきます」


そう言って立ち上がり、財前はパソコンの録音状態を解除した。
持っていたマイクも机の上に置き、何事もなかったかのように再び一氏のところへ戻ってくる。
そんな様子を茫然として見ていた一氏に、財前はまたにこりと笑った。


「何すか」

「……いや、何でもない」

「そうですか。じゃ、続きやりましょ」

「んッ……」


淡々と喋りながら行為を開いていく様子が財前らしいと言えばそうなのだが
まだ中学生で、それに自分よりも年下なのだから、もう少し感情を自分に見せてくれてもいいのに、と
一氏は思っていた。先程の作曲のデータの事だって、びっくりしたなら声を上げればいい。
怒ったならその場で不満をぶつければいい。なのに財前は固まっただけで、無表情のままだった。
ただ、こうやって性的なものにその不満をぶつけてくるのもどうなのかとは思う。
だが一氏はあえてそのことは口に出さないことにした。
何も知らぬふりで財前の下で声を上げた。


「あ、うっ……ッあ、んぅ……も、指、ええから」

「やる気満々やないっすか」

「……お前がその気にさせたん、やろ……ッ」

「へえ」

「あっ……んんッ…ん、やあ、あ……」

「……あーもう、可愛すぎ。ユウジ先輩」


快感に耐えながらくいくいと財前のシャツを引っ張る一氏が可愛くて
思わず頬の筋肉を緩ませながら、とっくに肥大していた自分のモノを出し始めた。
ズボンを抑えるベルトすら邪魔に感じるほど急いでいた。
自分で先輩が満足してくれるなら、喜んでくれるなら、何でもいいと思った。


「あ……え?……あッ、や、ああああッ……!」

「力、抜いて下さい。痛いっすわ」

「お、まえ、いきなり入れん……なっ……あ、ああっ…!」

「だって先輩可愛くて」

「ふざ、けんなっ……どっちが……ッ、やる気満々やねん、あっ…んあっ、あ」

「じゃあ二人共ってことで」

「あっ、あ、んッ……んッ……ああ、あっ…!」


―――ああ、もう。

じゃあ、どっちもアホってことやな。



そう思いながら、一氏は目の前の恋人に身体を預けた。









「なあ、あの録音したやつってどないしたん」

「はあ?」


行為を終えてシャワーを浴びて戻ってきた財前に、一氏は一言放った。

それに対し、首に巻いたタオルを掴みながら財前は怪訝な顔をする。


「さ、さっき!お前!撮ったやろ俺の声!消した?」

「……ああー」


顔を真っ赤にしている一氏を見て、ようやく何のことか思い出した財前は
ちょっとだけからかいたくなって、パソコンのほうとちらりと見た。
一氏の必死そうな顔を見ていると、更に加虐心が煽られるのだ。


「あれ保存しときました。これで先輩居ない時でも全然抜けますから」

「……ほんまに!?嘘やろ!」

「いやーいいもん撮らせてもらいましたわ。むしろ作曲データ破壊してくれて感謝っていうか」

「いやいやいや!消せや!有り得へん!」

「気持ちだけ受け取っておきますわー」

「ちょ、やめ……ほんま、消してやー!」


一氏は涙目になっている。
とうとう耐えられなくなったのか、財前は思いっきり笑い出した。
普段からあまり笑ったりしないのに、微笑どころか爆笑している財前の姿を見るのは滅多になかった。
拍子抜けしてしまった一氏は、目を丸くして困惑している。


「な、何……」


どうしたらいいのかわからず、何も言えなくなってしまっている。
財前は思う存分笑った後、ようやく止まって目じりに溜まってしまった涙を拭いた。


「そんなわけないっす。俺、そこまで変態やないんで」

「……か、からかったんか」

「本人いるんやから、ちゃんと生で聴きたいっすよ」

「うるさい!」


からかわれたのが悔しいのもあったが、一氏は反面少し嬉しがっていた。
滅多に感情を表さない男が、自分の目の前で涙を見せるほどに笑っていたことが嬉しくて
一発頭を叩いてやろうと思っていたのに、そんな気力さえ無くしてしまった。


「ああ、俺のほうこそ録画して保存したかった」

「え?」

「今の光の爆笑」


そう言うと、“アホやないですか”と言ってそっぽを向く。

でも後ろから耳が赤くなっているのを発見した一氏は、財前に見えないようにくすりと笑った。





END





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*あとがき*

財ユウ企画に参加させて頂きました。
久しぶりにR指定小説書いたので、拙い文章で申し訳ありませんが少しでも楽しんで頂ければ嬉しいです。
財ユウもっと増えればいいと思います!大好き!
素敵な企画ありがとうございました!

莉弥

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