湯けむり温泉恋情け

「ァっ……光…!」
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
※タイトルに深い意味はありません。
※蔵謙要素有り。ご注意ください。
「頼むわ、光〜」
ある日の昼休み。屋上で昼寝をしていた財前の肩を叩いたのは、ダブルスパートナーである謙也だった。謙也は今財前の前に膝を付き、手を合わせている。
財前は大きな欠伸をして、彼を見た。視線に気付き、謙也はもう一度手を合わせ直す。
「な?」
「…何やったっけ」
「って、聞いとらんかったんかい!」
「寝起きの俺にベラベラ喋るからや。謙也さん、ほんまいらち。あー…今やっと目ぇ覚めてきた…」
「ってか、さっきからお前タメ口…!俺先輩やぞ、先輩!」
「あー嫌やわぁ、そうやって権力振りかざすセンパイ」
そう言って財前は耳につけていたイアホンを外した。謙也はそれを見て思わずずっこける。自分はさっきまで、音楽を聴いていた上に寝ぼけている財前に、必死に話し掛けていたのだ。
苛立ちを抑えながら、謙也はもう一度ゆっくりと話し始める。
「…頼みがあんねん」
「何スか」
「再来週、部活も学校も休みの日あるやん?」
「ああ、確か工事あるとか」
「その日、何か用事ある?」
「別に」
「ちょっと付き合うてくれへんか」
「嫌や」
「即答かい」
「何で俺が謙也さんに付き合わなあかんのですか。大体、付き合うて何に―…」
「これ、知り合いにもろたんや」
そう言って謙也が取り出したのは、温泉旅館の無料招待券だった。一部屋、4名まで泊まれると書かれている。
謙也の家族は招待券の有効期限内に休みが取れそうになく、学校が休みなら友人と使えばいいと母に渡されたそうだ。
財前はそれを聞いて、思わず眉を寄せた。これに、付き合えと…?
「何で謙也さんと旅行行かなあかんのですか」
「あほ。俺かてお前と二人きりなんか御免やっちゅー話や!…白石、誘おうと思てんねん」
「はあ…」
「で、お前も一緒に来てほしいんや」
「……は?」
「そんな顔せんとって…!なあ、頼むわぁ!」
「部長と一緒なんか、尚更嫌ですわ!…っていうか、俺完全に邪魔者やないですか。二人で行けばええのに」
「確かにその通りなんやけど―…」
謙也はつい一ヶ月ほど前から、白石と付き合っている。財前はそれを知っていた。元から仲が良かったので、それほど変化があったわけではないのだが…関係はなかなか順調そうである。
そんな(一番盛り上がっているであろう)時期に一緒に旅行など…KYにも程がある。財前は咄嗟に逃げ出そうとしたが、謙也が腕を掴んで離してくれなかった。
「光っ!」
「いやほんまマジ3人でとか無理っスわ!」
「二人っきりとかちょっと気まずいやん…!俺まだそういうつもりないし、普通に旅行したいんや…!」
「いや、勝手にしてくださいよ!」
「俺が白石だけ誘ったら、そういうん狙っとるみたいで恥ずいやんか…!」
「知るか!ってか何で俺なんスか。千歳先輩とか、他の先輩誘えばええのに―…」
「やって、お前なら俺らのことも知っとるし、俺も色々と相談しやすいやん」
「はあ?」
「いや、ほら、お前のアドバイスのおかげで俺ら付き合うようになったわけやし…。お前が一緒に来てくれるんやったら安心やっちゅー話や」
言えない。
謙也にしたアドバイスは、実は白石に頼まれて言ったものだなんて。
『そうかそうか。お前もついにユウジとにゃんにゃんか』
『部長、それ古いっスよ』
『ええなぁ、若いって…』
『…言いたいことあるんやったらさっさと言うてくださいよ』
一か月半程前のある日。偶然部室で白石と二人になった。
付き合っているユウジとの進展をしつこく口にする白石に、財前は溜め息混じりに言い放つ。
白石はにっこり微笑み、こんなことを言った。
『俺と謙也って、仲ええやんか』
『はあ…』
『まあ、両思いなわけなんやけどな』
『言われんでも、見てたらわかりますわぁ。謙也さんそういうの隠せん人やから。…部長はわざとでしょうけど』
『やけど、なかなか告ってくれへんのや。色々チャンスあげとんのやけど、上手く言うてくれんでなぁ』
『……は?』
『財前。お前謙也にうまいこと言うて、俺に告白するように仕向けてくれんか』
『部長が言うたったらええのに』
『好きやって、謙也に言わせたいやんかぁ』
『………変態』
『聞こえたでぇ、財前くん』
『嫌ですわぁ、そんなん。俺にメリットなんもないですし―…』
『1年生ん時のユウジ文化祭生写真5枚セットでどうや』
『乗った』
白石から報酬である写真を奪った財前は、適当なことを言って謙也をそそのかし、白石に告白するよう仕向けた。謙也はこの事を知らない。「財前は自分たちのことを思って助言してくれたのだ」と、いまだに信じている。
ユウジの生写真のために動いたという後ろめたさがあり、財前はこの話題に弱かった。
このまま拒否し続けても、謙也は折れないだろう。そう思った財前は仕方なく振り返り、謙也にこんなことを言った。
「小春先輩抜きでユウジ先輩連れてこれるんやったら、ついてったってもええですよ」
正直、小春抜きでの旅行にユウジがついてくるとは思っていなかった。部員全員が参加するならとにかく、こんな怪しい旅行になど―…
謙也から「ユウジ来るって」のメールを受信した時は驚いた。ユウジは謙也の誘いに頷いたらしい。ユウジが了承した地点で財前の参加も決まり、謙也のメールには旅行の詳細が添えられていた。休日は何もせず、のんびり過ごすつもりだったのだが―…
後々聞いてみると小春は元々家族で出かける用事があったらしく、謙也はそれを知っていたようだ。ユウジを誘い出す前に、謙也はまず小春に助けを求めた。
小春は男女を問わず、様々な恋愛事情を把握している。快く謙也に協力し、ユウジが旅行に行くよう唆したのだろう。結局は『お土産交換しましょうね』という小春の一言に、ユウジは頷いたということだ。
「(……ユウジ先輩一人で行かせるわけにはいかんからな)」
こうして。過程はどうであれ、4人は一緒に温泉街の旅館へ一泊二日の旅行に行くことになった。健康マニアである白石の興奮は尋常なく、財前は出発前から嫌な予感を覚えずにはいられなかった。
「ええとこやな」
旅館に到着して早々謙也と白石は温泉に向かい、財前とユウジは部屋に残ってのんびりと過ごしていた。
窓から外を眺めていた財前に、部屋を見回したユウジが話し掛ける。「来てよかった」と嬉しそうに笑うユウジに、財前もつられて笑いそうになる。
「(そういう顔、反則やて…)」
「そういえば、光と泊まりで出かけるん、初めてやんな」
「合宿くらいでしたからね」
「なあ、飯食うたらその後この温泉行ってみん?小春に薦められたんや。ここで温泉入って、そのまま土産もん見て帰って来るとか―…」
「先輩の好きにしてええですよ。俺、別に目的とかないですし」
「そうか?…ってか、用事ないんやったらお前何でついてきたん?」
「謙也さんがついて来いって煩かったし、ユウジ先輩と一緒ならええかなて」
「ふーん……」
ユウジはそう言って、財前をじっと見つめた。視線に気付いた財前は軽く首をかしげ、口を開く。
「…先輩?」
「う…。その、前から気になっとってんけど…」
「何スか」
「何で謙也は『謙也さん』で、俺は『ユウジ先輩』何かなって」
「先輩やないんスか」
「いや、先輩やけど…俺は、お前の―………ああ、もうええわ!今の忘れて!」
「……『ユウジさん』」
ぷいと背中を向けたユウジに、財前は後ろから腕を回す。抱き寄せて腕の中に収めると、ユウジは耳まで顔を赤くした。
足をばたつかせているが、大した抵抗にはなっていない。財前は彼の頬に唇を落とし、耳元で囁いた。
「真っ赤や」
「ちょ、二人帰ってくるて…!」
「部長がそう簡単に温泉出てくると思います?夕飯の時間まで戻ってきませんよ、きっと」
「そういう問題やないっ…」
「見せつけたったらええんスわ」
「っふ……ぅ〜…」
「(耳、敏感やな…)」
「も、光……っ」
「『ユウジさん』て、呼んでもええんスか?」
「……好きにしぃ」
「やっと恋人同士っぽくなりましたわ」
「こいび……!っ……頼む、恥ずかしいからそれ以上余計な事言わんといて…」
恥ずかしくて死にそう。そんなことを呟くユウジに、財前は口の端を上げた。もう一度名前を呼んでこちらに振り向かせ、隙を見て唇を奪う。顔を離した瞬間、軽く頬を叩かれた。
「謙也も白石もおるんやから、そういうんは禁止やっ」
そんなことを言うユウジに「じゃあおらんかったらしてもええんスか」と言い放つと、先ほどとは反対の頬を叩かれた。照れ隠しなのだろうが、地味に痛い。
冗談で「暴力反対や」と言うとユウジが本気で謝ってきたので、財前は慌ててフォローした。ふとこういうジョークが通じなくなるのがいつも不思議だった。(財前に対してのみだと言うことに、ユウジも財前も気付いていない。)
話題を変え、普段出来るような会話をしながら二人の帰りを待つ。しばらくして、白石は活き活きと、謙也がゲンナリして帰って来た。予想通りの光景に、財前は思わず吹き出した。
4人で夕食を満喫する。くつろいでいた謙也と白石は部屋に残り、財前とユウジは小春に薦められた温泉に行くため旅館を後にした。
賑やかな通りの土産に目を奪われながら、帰りの楽しみだと我慢をする。小春が薦めるだけあって、綺麗で落ち着いた温泉施設が見えてくる。旅館で貰った券を使って中に入り、早速着替え始める。
「誰もおらんなぁ」
「さっき入り口ですれ違った団体がごっそりいなくなったからやないですか」
「ちょっとでも貸切って嬉しいな。誰か来てまう前に入ってまお!」
一つずつピアスを取っている財前を置いて、ユウジは先に温泉へ足を浸けた。乳白色の温泉は程よい熱さで、ユウジはすぐに気に入った。ゆっくりと歩いて来た財前を手招きし、腕を引っ張る。豪快に温泉へ突っ込んだ財前は首を振り、犬のように水を飛ばした。
「…………」
「そ、そない睨むなや。すまんすまん」
「鼻に入った…」
「はは…」
「…これ、何にええんスか」
「小春がええ言うくらいや。肌がスベッスベになるんやろ!…多分」
「って、聞いて来んかったんスか」
「う…。『ここがええ』としか聞かんかった…」
「アホスか、ユウジさん」
「え、ええやろ!悪いことはないんやからなっ」
「で、さっきから何してんスか」
「え?小春に持って帰ったろうと思って」
ユウジは小さなペットボトルに温泉の湯を入れ、キャップを閉めた。小春に少しだけでも楽しんでもらおうということだろうか。財前は大きく息を吐き、視線をそらす。
「そんなことしてもええんスか」
「ええやん別に」
「…さっき入り口でちゃんとした温泉の素売ってましたよ」
「え!?マジで!?」
「ユウジさん、ほんまアホ」
「鼻で笑うな!鼻でっ!」
「あー、ぜんざい食べたい」
「今それ関係ないし!」
「先輩、効いてます?肌…」
財前はそう言って手を伸ばし、ユウジの頬に触れる。財前は首をかしげると、次は首、うなじ、胸と、どんどん下に手を下ろしていく。脇腹辺りまで手が下りてくるとユウジもさすがに顔を赤くして抵抗し始めた。財前が手を止める気配はない。
「ちょ、お前何して―…」
「確かに、いつもよりスベスベかも」
「俺やなくて自分の触ればええやろっ」
「それ虚しないっスか?」
「じゃ、じゃあ俺も―…」
「触られるとかウザイんで止めてくださいよ」
「お前が言うか…!?」
伸ばされた手をかわし、財前はユウジの背後に回った。後ろから腕を回し、再度肌に触れて行く。暑いからくっつくなとユウジは言ったが、財前は彼を離さなかった。右手は胸の突起を弄り、左手はどんどん下りて行く。
「(ぁ…なんか、ヤバイ。光、本気や…)」
ユウジは身体を丸め、首を振る。そっと中心を包まれ、声が漏れた。裸でぴったりとくっついている状態だ。反応せずにはいられない。
ゆっくりと扱かれ、肩を上げる。快楽に流されそうになったその時、脱衣所から声が聞こえてきた。次の客が来たのだろう。ユウジははっとして財前に言う。
「ひ、かる……人…っ!」
「ユウジさん、ココ、めっちゃ膨らんどる」
「ぃ……ぅあっ…」
「……こうっスか?」
「っ〜〜〜………!」
激しくなる一方の攻め立てに耐え切れず、ユウジは熱を吐き出してしまう。その直後に戸が開けられ、次の客が入ってきた。財前はユウジの身体を支え、立ち上がる。
顔を真っ赤にして息を乱しているユウジを見て、客の男の一人は心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫ですか?」
「っ―……!」
「大丈夫です。ちょっとのぼせただけなんで」
財前はそう言って頭を下げ、足早に脱衣所に向かう。戸を閉めた瞬間ユウジは膝をつき、財前を睨んだ。
タオルを持ってきた財前はユウジの身体を丁寧に拭いていく。恥ずかしさに耐え切れなくなり、ユウジは財前に抱きつき、顔を胸に埋めた。
「も、死にたい…」
「すんません、なんか、ノってきてもて」
「光のアホぉ…!」
「やってユウジさん可愛かったんやもん」
「『やもん』とかかわい子ぶってもあかんで!!」
「精液入り温泉…」
「だぁぁぁぁっ!!呟くな!それ中学生が呟いてええ単語ちゃうでな!!」
「卑猥やなぁ…」
「もう嫌やぁぁぁ…」
ユウジは隠れるように素早く着替え、先に外へと飛び出した。嫌なことを思い出しそうで、温泉の素など買う気にもならなかった。
しばらくして、財前はのんびりと外に出てきた。文句を言ってやろうと顔を上げたのだが、ユウジは固まってしまう。互いに旅館にあった浴衣を着たのだが―…
「(悔しいけど…めっちゃ似合うてるやん…)」
「ユウジさん、これ、帯わからへん」
「あ、ああ…」
「先行ってまうから焦りましたわぁ」
「こんなん適当でええんや。ほら」
「適当でええとか言いつつ、めっちゃ綺麗に結んでくれますよね」
「まあ、こういうんは得意やからな」
「…めっちゃ似合てます」
「え?」
「ユウジさんの浴衣姿、めっちゃそそる」
「っ…あ、アホ!男の浴衣姿の何がそそるんやっ。意味わからんし!」
不覚にも自分が見惚れてしまっていたことは棚に上げる。隠しても、見透かされていたような気もするが…気付かない振りをしてユウジは来た道を戻り始めた。
すれ違う女性客の視線に気付き、ユウジははっとする。皆、財前と見ているのだろうか―…。少し離れて歩いていたのだが、それに気付いてからはすぐ隣を歩くようにした。何となく、一人で歩かせたくなかった。
「(って、俺は女子かっ…!)」
「ユウジさん、この店小物多いっスよあ。土産見るんでしょう?」
「あ、ああ!せや、小春に買ってったらんと…!」
財前に声を掛けられ、店の中に入る。動揺を隠しながら店のものを物色し、ユウジは手鏡を手に取った。和柄がモチーフの手鏡で、同じ柄の小物入れもある。ピンク色の布に黄緑色の花柄が舞っていて、小春の好きな色にピッタリだというのも、ユウジは気に入った。
「これにするわ」
「鏡とか、小春先輩持ってませんでしたっけ?」
「派手にデコっとるのはあるけど、こういう和柄のはないねん。うん、絶対これや!買うてくるな」
「はあ…。俺、そっちの温泉饅頭食べてるんで」
「お前ほんまに好きやなぁ、そういうの…」
レジに行くまでにも様々なものが目に入り、かなり悩んだのだが…最初に選んだ鏡と小物入れを購入した。時間がかかったので足早に戻ると、財前は二つ目の饅頭を食べようとしているところだった。
遅くなったことを詫びると、ぶっきらぼうに包みを渡された。饅頭かと思ったが、膨らみや重みが違う。不思議に思って中を開けて見ると、見覚えのある手鏡が入っていた。それが先ほどユウジが買った小春への土産と色違いのものだと気付くのに、時間はかからなかった。
「え?光、これ―…」
「さっきの詫びっスわ」
「さっきの?」
「温泉で…」
「っ…!べ、別にええって!思い出さすなや!(ってかいつの間に―…)」
「じゃあ、プレゼントっスわ」
「これ、俺が小春に買ったんと同じやつやん」
「先輩、藍色好きでしょう」
「俺が小春とお揃いとか、嫌とちゃうんか?」
「嫌ですけど…ユウジさん喜ぶのわかっとるし、喜んでくれた方が俺も嬉しいから」
財前が照れくさそうにそう言うのを見て、ユウジは思わず口元を押さえた。これは「きゅんときてしまった」と認めざるを得ない。
「(こいつ、たまにめっちゃ可愛え時あるよな…。このギャップは反則やで、天才財前くん)」
「何スか。キモイっスよ、その視線」
「光…お前はほんっまごく稀にええとこ見せてくれるよな…!」
「…素直に喜んでくださいよ」
「ああ、ちょっと待っといて!饅頭食ってもてええから!」
ユウジは急いで先ほどの店に戻り、あるものを手に戻ってくる。財前にそれを押し付け、ユウジは機嫌良く旅館へと歩き始めた。しばらくきょとんとしていた財前は押し付けられた袋の中を見て絶句する。慌ててユウジを追いかけ、中のものを突きつけた。
ユウジが買ってきたのは先ほど買った物の色違い…赤色の手鏡だった。
「どういうつもりスか…!」
「いや、俺だけもらうのも悪いからな。お前もお揃いやったら文句ないやろ?赤好き言うてたやん」
「ユウジさんと揃いならとにかく、これやと小春先輩ともお揃になってまうやないですか…!」
「………あ。ま、まあええやん、別に」
「よおないですわ。こんなん持ってて俺も軍団の一員や思われたら敵わへ―…」
「照れよってからに〜」
「(この気持ち悪いくらいの笑顔を向けられると、拒否るに拒否れへん…っ)」
財前は仕方なく鏡を受け取り、足取り軽いユウジの背中を追った。部屋に戻ったら謙也や白石に見つかる前に隠そう。そんなことを思いつつ、ユウジが喜んでくれたことを嬉しく思った。これで温泉での一件はチャラになっただろうか―…
温泉街を満喫した二人は旅館に戻り、部屋を目指した。謙也と白石を驚かせてやろうと思い、静かに戸を開ける。その地点で、財前もユウジもうっすらと異様な空気は感じ取っていた。
襖の向こうから物音が聞こえてくる。同時に耳に届いたのは、謙也の声だった。
「あ、かん……も、無理……って」
「何があかんの…?」
「ひぁ……!?ァっ…白石ぃ…」
「謙也のココ、どんどん飲み込んでくで…?ほら…」
「い…っ………ぅあ……」
財前が止めるよりも先に襖を少し開けてしまったユウジはその光景を見てしまったのか、顔を真っ赤にして硬直していた。財前は頭を抱えながら、ユウジの腕を掴む。
手早く襖を閉め、部屋を飛び出した。旅行に来る前から、ずっと嫌な予感はしていたのだ―…
ロビーに出た所で振り返ってみると、ユウジは口をパクパクさせ、まだ動揺しているようだった。友人たちの濡れ場に、ショックを受けているようだ。
「大丈夫っスか」
「見てもたぁぁ……」
「まあ、何となく予想はしてましたけどね」
「ってかあの二人何なん!?いつの間にくっついたん!?」
「は?ユウジさん、知らんかったんスか?一ヶ月くらい前から付き合うてますよ、あの二人」
「マジで…!?」
「まあ、あんま変化ないからわかり難かったですけど…。そうやないと旅行なんて来ないでしょう」
「な、何や、あいつら最初っからそのつもりやったんか?俺らなんで誘われたん…!?」
「(謙也さんはする気ない言うてたから…部長に襲われたんやろな。最初っから勝ち目ないやろ)」
「(人のん初めて見た…。頭から離れへんっ…も、最悪や。覗き見してもた俺が自己嫌悪してまうわ…)」
顔を赤くしたままのユウジに気付き、財前はもう一度外に出て頭を冷やそうと提案した。ユウジは大人しく頷き、浴衣の裾を握ってついてくる。財前も多少の動揺はあったが、ユウジを見ていると自然と落ち着くことができた。
もう一度同じ道を通り抜ける。財前は店を眺めていたが、ユウジは俯いたままだ。少し道を外れるとカップルが戯れており、二人は慌てて引き返す。しばらく歩いてやっと落ち着けそうな場所を見つけ、財前は石垣に腰を下ろした。
「ユウジさん、こっち」
「浴衣汚れへん?」
「どうせ旅館戻ったらもう一回風呂入らなあかん。汗かいたし…予備のん借りましょう」
「そ、そっか」
「まだ真っ赤や、ユウジさん」
「うっさい。…お前は見てないからのん気なこと言えるんやっ」
「先輩ら、そない凄いことしてました?やっぱ激し―…」
「わぁぁぁぁ!思い出さすなや!!」
ユウジはそう言って首を振り、財前に背を向けた。何度か声を掛けてみたが、隣に座る気配がない。不思議に思って立ち上がり、前に回りこんでみる。目が合うと、ユウジはじっと財前の顔を見たまま動かなくなってしまった。
その表情に、財前は見覚えがあった。確か、初めて彼に誘われた時もこんな目をしていたような気がする。
「(って、まさかな…。先輩らヤっとるの見て欲情するとか―…)」
「…………」
「ユウジさ…」
「光。あの、な」
「はい?」
「キス、してもええ…?」
「………どーぞ」
ユウジの言葉にドキリとしたが、財前は平然を装って返事をした。顎を少し上げて待つと顔が近づき、唇が触れる。
このままリードしてやろう。財前がそんなことを思い、ユウジの腕を掴んだその時。異変に気付き、財前は思わず身体を離した。喜びよりも驚きが勝り、対応出来なかった。
「ちょ、何スかいきなり…!」
「や、やって…」
「…部長やな」
「謙也が気持ち良さそうにしとったから…どんなもんや思うて」
「やからっていきなり舌入れんとってくださいよ。ビビって対処出来んかったやないですか」
「…どやった?」
「へたくそ」
「ぐっ…!」
「あーあ。折角我慢しとったったのに」
「え…?」
財前は小さく呟いた後ユウジの腕を掴み、強引に引いて行く。路地裏に入り人がいないことを確認すると、ユウジを壁に追い込む。驚く彼の唇を奪い、舌を挿し入れた。激しく絡め、吸い上げる。崩れ落ちそうになる身体を抱きとめ、口付けを続けた。
飲み込めなくなった唾液が口の端から零れ、ユウジは目を潤める。一度顔を離して気分はどうかと聞いてみると、「最悪」としか返ってこなかった。恥ずかしいのか、視線を逸らしている。ユウジはいつの間にか財前の肩に腕を回しており、同意は取るまでもなかった。
首筋に吸い付き、印をつける。熱っぽい息が漏らし、ユウジは震えているようだ。一度火がついたこの状態で、これ以上の抵抗はないだろう。財前はさらに印を増やしながら、浴衣の中に手を滑り込ませる。温泉に入って滑らかになった肌を、ゆっくりと指の先でなぞった。赤い突起は触れる前から膨らんでいて、摘み上げるとユウジは嬌声を上げる。
「ひぁ……!ぁっ……ん…」
「っは……浴衣って、ええですね…。脱がしやすいし…なんか、エロい…」
「ァっ……光…!」
「ええですよね。どうせまた、風呂入るんですから…」
「っ―………!」
腰の帯はそのままだったが、浴衣はほとんど肌蹴ていた。ユウジにも財前にもそのことを気にする余裕はない。
下着を引き下ろすと既に勃ち上がっていた中心が露わになる。ゆっくりと扱くとユウジは歯を食いしばり、声を押し殺した。外だということを気にしているのだろう。財前は構わず手を動かし続け、もう一方の手をユウジの背中に回した。
ゆっくりと下ろし、今度は太腿から上へ撫でていく。固く閉じられた蕾を指の先を押し付けるようにしてほぐしていこうとしたが、なかなか上手くいかない。財前はユウジの膝に腕を回し、片足を持ち上げた。脚を開かされ、ユウジは涙目に訴える。
「い…やや…!この恰好、無理っ…」
「そう言うても、こうせなここ、入りませんし…」
「っふ……ぁあ……!」
「…ほら、入った」
「ぁ……ぅあ…も、あかん……」
「ユウジさん…。その恰好、めっちゃクるわ…」
ユウジの脚をなぞるように、先走りが伝っている。先ほど温泉で一度達していたこともあり、いつもよりは我慢が続いているようだ。このまま先に進んでも大丈夫だと判断し、財前は指を引き抜く。
ゆっくりと息を吐かせ、力が抜けたところで一気に自身を挿入した。突き上げるたびにユウジはビクビクと身体を反応させ、財前にぎゅっとしがみ付く。
「ァっ……ひか―……っ」
「くっ…やっぱ、きつ…。ユウジさん、何回ヤっても全然ほぐれへん……っ」
「や、あっ……光、ちょ、激しっ……」
「っ………」
「ゆっくり、してや……っ」
「すんません。なんか…加減が難しくて…っ」
「ぅあっ……も、イってまう……って…!」
「(くそ……)ユウジさん、俺も―…」
「う、そ……無理、って…!俺―……ひぁぁ…っ!」
「……!ちょ、崩れんとって……!俺、抜けへ―…」
「ッ――………!」
力が入らなくなり、ユウジは崩れ落ちるように膝を曲げる。さすがに財前も支えきれなくなり、結果、ユウジを深く突き上げる事となってしまった。ユウジは声にならない悲鳴を上げ、上りつめる。締め付けに耐え切れず、財前もそのまま熱を吐き出した。
肩を揺らしながら、ユウジは財前を睨みつける。
「おま…っ…中……!!」
「ユウジさんが、ちゃんと自分で体重支えへんから…!」
「無理やっちゅーねんっ!ってか、今日、激しすぎ…っ」
「立ったままて、難しいんスよ…。部室や教室って燃えますけど、青姦って何がええんかわかりませんわ。しんどいし、後処理面倒やし」
「今それを言うか……!?」
「浴衣は好きですけどね」
財前はそう言ってユウジの腰に手を添え、ゆっくりと自身を引き抜く。蕾からは先ほど吐き出した精液が零れ、先走りと共にユウジの脚を濡らした。脚を伝うその感覚に、ユウジはブルっと震えている。
温泉で身体を拭くのに使ったタオルを取り出し、それを拭ってやった。指を挿れてナカのものを掻き出すと、ユウジは顔を真っ赤にして感触に耐える。偶然を装って奥を引っ掻いてみると、わざとやったことがバレたのか、頭を叩かれた。財前は大人しく指を引き抜き、ユウジを解放する。
「あほっ」
「スンマセン」
「ああ、ほんま今日最悪っ。ベタベタして気持ち悪いし……何もかも、あの二人の所為やっ。帰ったらしばいたる…!」
「謙也さんはそれどころやないでしょうけどね」
「……やっぱ、めっちゃ顔会わせ難い」
「あんま気にせんと、からかったる勢いで行きましょう」
「せやな…」
財前に手を借りて、ゆっくりと立ち上がる。自分と財前の浴衣をしっかりと整え、路地を抜けた。早く帰りたいのか足早に旅館へと向かうユウジだったが、大通りに戻ったところで突然財前に腕をつかまれ、首にタオルを掛けられる。
振り返ったユウジに、財前は鏡を見るように言った。財前にもらった鏡を取り出し、覗き込む。鏡に映った自分の姿に、ユウジは声を上げそうになった。首筋には赤い印が無数に散らばり、浴衣では隠せない状態になってるのに気付いたからだ。
「光〜っ!!」
「やって、暗いとなんも見えんし…。やから嫌なんスよ、外とか」
「この鏡、もう使いたくなくなった……。一番最初に写した自分の姿がこんなんて…」
「ええやないですか」
「よくないわ!ってか俺Tシャツしか持ってきとらんっちゅーねん!丸見えやないか!」
「俺のシャツと交換しましょか」
「……お前まさか最初っからそのつもりで…!」
「ブッ…!ちゃいますわ!ってか、誘ったんユウジさんやし!」
二人はそんなことを言い合いながら賑やかに部屋に戻り、謙也と白石と4人、ちょっぴり気まずい夜を過ごしたらしい。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
二回目の投稿です。素敵な財ユウ作品の中に馴染めるのかを心配しながら、一生懸命書かせて頂きました。
浴衣でそういう感じの財ユウが書きたくて無理やり設定を作ったのですが、ほとんどギャグ小説のようになってしまって…アダルト企画なのに、申し訳ないです。
いかに自分がエロに向いていないかを思い知らされました…。が、やっぱりこの二人は書いていて楽しく、このような機会を頂けたことを嬉しく思います。
お付き合いくださった方々、本当にありがとうございました。
オチのついてない蔵謙はいつか自分のサイトでどうにかしたいと思います。(笑)
口直しは他の参加者様の素敵な作品でどうぞ。
© ZxY Adlut Project