続:カワイイヒト
『俺んとっては、どんな格好しとっても、先輩が。ユウジ先輩が、一番可愛ええっすわ』
可愛ええと大好きはイコールなのだと信じきって、安堵したあの日から数日。
「光なんか、大っ嫌いや!」
「…それ、本心で言うとるんすか」
「そうや、言うたらどないすんねんっ」
「殴ったりますわ」
「は、おどしか!そらええわな。そんなん言うたかて何も変わらんで!」
「ほんまに、やりますよ」
「上等や!言うたるで本心!俺は、お前がだいきら…」
財前の左手が空を切り、平手でパァンと音を立てて叩かれた一氏の右頬。 俯いた一氏の顔は衝撃を受け左方向を向いたまま、微動だにしない。
「アンタ、ほんまないわ…チッ。少し、頭冷やせや」
財前は一氏を叩いた左手を握りしめると一氏を残し、その場を去って行く。
「痛…」
財前が去った部室で、一人そう呟いた一氏は熱気を帯び始めた右頬に手を当てる。
「光のやつ、本気で叩きよって…ほんま。ないっ、わ」
じわ、と溢れ始めた涙を制服の裾で乱暴に拭い、荷物を持つと一氏もまた部室を出ていった。
そもそもの原因は、一体なんだったのか。
少なくともあの日は幸せ、だったはず。否、今までにないくらい嬉しくて、幸せだった。
今回も、本当はここまでの大喧嘩に発展させるつもりではなかった。
ただ、いつもと違ったのは放課後に、一氏の誘いを断ってまで財前が『自主的に同級生の女子と一緒に外を出歩いていた』ということと、それを一氏が『頑なに許さなかったこと』にあった。
「女と一緒に居たて、なんやねん」
「…まぁ、別にええやないですか」
「なんで、一緒に居ったん」
「用事っすわ」
「なんの」
「何でもええやないですか」
「俺が、ようないねん」
「先輩には、関係あらへんことっすわ。もうええやないですかこの話題」
「…光って、いっつもそうやんな」
「?」
「はっきり言うたらどないや、俺にあきたて。ほんまは女がええんやて」
「何、言うとんのですか。そんなんありえへんっすわ」
「そんなん分からん。お前なんも話さへんねんもん…俺、光のそーゆーとこ嫌いやわ」
「…は?」
嫌い、の言葉を口にするとともに微かに歪んだ財前の表情。それに気付けず一氏が嫉妬にかられ言葉を発してゆき、冒頭のセリフまで発展してしまったのだった。
「(悪いんは俺やない。光が、折角誘ったんに俺ん家来んと女と一緒に居ったんが悪いんや)」
謝って来るまで許さん。 そう誓い立てて殴られた頬を冷やしもせずに部屋着に着替えベッドに潜り込む一氏。
放っておけば翌日酷いことになるのは当然のこと。
そして、ふて寝はしていたものの、ズキリと右頬の鈍痛を感じるたびに目を覚まし、目を覚ます度に頬の痛みと心の痛みに泣いていた一氏は翌日、さらにその後二日、学校を休んだのだった。
「財前!」
「なんすか」
「ユウジ、今日学校来てへんみたいなんやけど何か聞いてへんか?」
「さあ、知りませんわ」
「さよか」
計3日、一氏が休んだのは熱を出した為だった。
「つら…」
俗に言う、知恵熱と呼ばれるもの。
知恵熱と言えども病気に代わりはなく、ついでに右頬を腫らし、泣き腫らした顔を見た母親がその様に驚愕したのは言うまでもない。
財前と喧嘩して早3日。 学校へ行ってない一氏は当然ながらこの3日間財前とは会ってもいなければ連絡すら取り合ってはいなかった。
頬の腫れは引き、大分熱も下がっていた。ただ、3日前から変わらずむしろ酷い方向に向かっていたのは一氏の涙腺。
気付けば溢れ、零れ落ちる涙を擦りすぎて目蓋の赤みが取れることはなく、それでも流れれば擦りを繰り返し一氏の左腕が悲鳴を上げていた。
「(謝らんと、光に謝って、そんで、大嫌いなんて嘘や言うて…)」
その後は? 殴るほど怒らせた財前は、はたして自分を許してくれるのだろうか。 呆れられていない保障もなければ、今、財前と付き合っているという自信もない。
「(…もう、ほんま嫌や)」
財前が女装した自分を可愛いと言ったあの日に戻りたいと願いながら一氏は目蓋を閉じた。
ふと、頬に温もりを感じて一氏は目を覚ました。
覚醒しきっていない微睡の中、ぼやける一氏の視界の中に、一氏を見下ろすこれまたぼやけた財前が居た。
「光…」
ぼやけとる、そう言って一氏は財前に手を伸ばすもその手は財前に叩かれてしまう。
「な、んで」
拒絶された。 そう感じた一氏の瞳にじわと涙が浮かぶ。
「泣いてもだめっすわ。頭、冷えはりましたか?」
「冷え、た」
「学校3日も休んで…なんか、俺に言うことあるんやったら、聞いたってもええですわ」
「光…すま、ん。大嫌いなんて、嘘や」
「…………」
「ほんまは、好き。むっちゃ、好きやねん」
一氏が財前に向かって再び伸ばした手は、拒絶されることなく財前の手に捕らえられた。
「…叩いて、すんませんでした」
財前は屈んで自分が3日前に叩いた一氏の右頬にキスをする。
「好きや、光、好き」
一氏は財前の身体に腕を回すとぎゅうと力を込めた。
「俺、死にそうや」
「…俺は、こん体制のせいで足つって死にそうっすわ」
「なぁ光、抱いてや。光が足りひんねん」
「…………」
「!ふがっ」
財前は一度、一氏の鼻を摘むと上着を脱いで布団を捲るとベッドへと上がり一氏に覆い被さるような態勢になる。
「病人かて手加減出来ませんわぁ。やり殺されても文句言わへんで下さいよ?」
「光…んっ」
遠慮なく押しつけられ、ぬるりと一氏口内に入ってきた財前の舌に、一氏は必死に絡ませる。
「あっ、つ…」
「ひっ、あ、つめた」
日頃、低体温な財前の身体は日頃よりも熱を持った一氏の身体を震わせた。
「ユウジ先輩、どこもかしこも熱いっすわ」
「ん、うっ」
一氏の首筋に所有物を刻みながら素肌に触れれば、その冷たさに、一氏の身体はびくびくと跳ねる。
「…心臓、止まらんとええですね」
「あう!」
寝巻のズボンを脱がされ、直接中心部に触れられれば途端に一氏の熱が弾けた。
「早…」
「あ、あ、いや、やっ」
「なんや、冷たい方が具合ええんやないですか?」
「っちゃう」
「…確かめたります」
財前は弾けた一氏の熱を指に塗り付けると、一氏の片足を肩に担ぎ一氏の熱で濡れた指二本を一氏の後孔へと侵入させてゆく。
「つめ、や、あっ…はぁ!」
「ゆるゆるやな」
ぐちぐちと中でかき回され、財前が一氏のいいトコを引っ掻いてやると一氏の中心部は再び熱を持ち始めた。
「も、ややっ」
「何言うとんのですか」
「あっ」
指を引き抜かれ、代わりに押し当てられた財前の熱に一氏の腰が揺れる。
「腰、揺れとりますよ」
「はよ、んっあぁあ!」
受け入れた熱と質量。 至近距離に覆い被さってきた財前に再び一氏の腕が回る。
「っ、…しっかり掴まっといて下さい」
「あぁっ!――んぅ、ふかぁ―ぃあっ」
ガツガツと腰を揺さ振る財前にしがみつき、一氏はその振動に耐える。
「…先輩、なんぼなんでもしめすぎー」
「んあ、あっ!…ひか、あつ…んうっ」
「中、ええですか?」
「ん、ええ、よ!」
「っう、」
「あっ、あ、はっぁあ!」
荒い息の中、財前は一氏の中から出ると身体を起こし床に置いていた自分の荷物を漁りだす。
「なん、いっ!…帰るんか?」
起き上がった財前に、一氏も急いで起き上がり腰の痛みに顔をしかめつつも財前の腰に腕を回した。
「帰って欲しいやったら今すぐ帰ったってもええ…」 「あかんあかん!嫌や、絶対行かせ…んっ」
振り向いた財前に唇を塞がれ、唇が離れると一氏はキスの間に違和感を感じた左手をみた。
「おい、光これ…」
それは薬指にキラリと光るシルバーリング。
「ほんまは、ピアスにしたかったんすけど、先輩穴開いてへんし」
「でも、高かったんちゃうんか」
「…まあ」
「っ!」
ピッタリサイズのリングに一氏はこれ以上ない程の声にならない歓喜の声をあげるとより一層財前を抱き締める腕に力を込めた。
「げほ、…でもまさかそれの所為でユウジ先輩に嫌い言われるとは思うてへんかったっすわ」
「う…すまん」
「せやから、」
「なっ、あ!」
財前は身体に巻き付いた一氏の左手薬指からリングを抜き取るとぎゅっと左手で握り締める。
「返せや!」
「勘違いせんといて下さい。まだ、ユウジ先輩にあげたわけやないっすわ」
「え、」
「俺は、もう二度と先輩に俺んこと嫌いとか言われたない」
「…うん、すまん」
「二度と言わんて誓えるんやったら、あげますわ」
「誓えんて、言うたら?」
「…これ捨てて、かわりに俺なしで生きていけへんくらいに先輩んことやり倒したりますわ」
「俺、そんでもええで」
「…………………」
「せやけど、その指輪欲しいから誓ったるわ」
「そら、どーも」
財前から一氏へ付き合って初めてのプレゼントは、内側に互いのイニシャルが刻まれたシルバーリング。
改めて左手の薬指にはめられたその上に、生意気な恋人から、素直じゃない恋人への誓いのキス。
「なんや俺、オヒメサマみたいやな」
「望みはるんでしたら、オウジサマになったりますわ」
「…オウジサマはオヒメサマ叩いたりせえへんねんで?」
「愛っすわ。そこんとこ理解しとって下さい…なんやったもう一回叩いたりましょか?」
「いらん!」
「俺も、好きな奴叩きたないっすわ。せやからユウジ先輩は俺んことは好き言うとればええねん」
「光かて、そうやろ」
「俺、先輩んことは愛しとりますんで」
「っ!…くそ、なんでそんな格好ええねん」
そんな一氏を溺愛する、カッコイイヒト
【後書き】 図々しいながらも二作目← 『カワイイヒト』と対になっています。 『カワイイヒト』では一氏メインだったので今回は財前メインにしようと思ったのですが、結局一氏メインになってしまいました(え
生意気財前×素直じゃない一氏
を、表現出来ていたらいいな! 素敵企画万歳\(^O^)/
|